知られざる「お嬢様」の実態に迫る!!

にわかに常識として我々人類の脳髄に巣食う「お嬢様」.

しかし我々はそれを観測したこともなければ,ましては遭遇したこともない.その上で我々の共通認識としては確かに存在しているソレは,もはやUMAと言って差し支えないだろうと思う.

そこで我々Zooは「お嬢様」の実態に迫るため,ネットの海の深くまで潜航することにした…

これはその一部始終を捉えた記録である.

 「お嬢様」の定義を探れ!

何事でもそうだが,まず初めに行うことは言葉の指し示すものを明確にすることだ.*1 

言葉を定義づけるというのは難しいものだが,現代では「集合知」という非常に便利なものが使える.その場合,大事なのはどの集合の知見に頼るかということだが,まずはこちらを見ていただきたい.

 現代日本で幅広く使われていてある程度メンテもされてる,と思われる3つの情報ソースからまずは「一般的なお嬢様」を探る.

お嬢さん - Wikipedia

のっけから曖昧検索に飛ばされてしまった.「お嬢さん≠お嬢様」であると,我々の脳内のお嬢様が叫んでいる.しかしWikipediaでは,一般的な語彙としては,「お嬢様=お嬢さん」なのである.そう,スラング*2である.

お嬢様 (おじょうさま)とは【ピクシブ百科事典】

意外なことに,スラングではあるがピクシブの方の記事は少ない.

概要

  1. 他人、特に主家や上司など目上な人物の娘に対して用いる敬称。
  2. 裕福な家庭で経済的に全く苦労することなく大切に育てられた女性・少女。

この程度である.これはピクシブのユーザーと「お嬢様」が潜在する人々とで多少の乖離があることがうかがえる.もっと言えば,イラスト的に表現されうる存在ではない可能性がある.

お嬢様とは (オジョウサマとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

スラング,とりわけネットスラングには強いニコニコ大百科ではかなり充実した記事が書かれている.こういう尖った情報が何故か豊富なところがスラングの面白いところである.

さて,定義を見ると以下のように書いてある.

概要

お嬢様とは、「嬢」という若い女性を意味する言葉に尊敬語の「お」を付けた「お嬢」にさらに尊敬の言葉「様」を付けたもの。に身分が高い少女女性に使われやすい。また、身分が高く世間知らずな様子。

類義に「お嬢ちゃん」「お嬢さん」があげられる。

(お嬢様とは (オジョウサマとは) [単語記事] - ニコニコ大百科より)

ココで大切なのは,「嬢」という若い女性を意味する言葉に尊敬語の「お」を付けた「お嬢」にさらに尊敬の言葉「様」を付けたもの」という1文であると思う.

つまり,二重に尊敬されるほど高貴なる嬢がお嬢様なのだ.*3

ページ下部にあるお嬢様言葉の解説にもそれが現れている.

お嬢さま言葉との関係

お嬢さまことばは、その名の通りお嬢様が使う言葉としての印が強いが、この言葉が女学生言葉と呼ばれていた明治の頃は乱れた日本語とされ下賎なものとされていた。その後、女子学習院などの上流階級の学習の場において定着することになり、それが現在お嬢さまことばの印の元となった。

 こういうとこでサラッと歴史的な変遷が追えるあたり,便利な時代になったものだと感じるが,ともかく「使う言葉から下賤な輩とは違いましてよ」と言わんばかりの絵が浮かぶのではないだろうか.

加えておそらくもう一点の重要な要素として,「身分が高く世間知らずな様子。」が重要になる.「高貴なる方々が庶民感覚に驚く」というのは娯楽としては古典に位置すると思われ,そのスナックな娯楽概念が「お嬢様」として我々の間で存在しているのだ

下賤な「お嬢様」

ここまでの調査で,お嬢様をお嬢様たらしめる部分は概ね理解できたが,一つの疑念が浮かぶ.昨今ネット界隈を賑わす「お嬢様」に高貴さはあるだろうか?

そう,無いのである.*4

無いどころか,下賤な輩と称されてもおかしく無いような言動の数々を我々に提供してくれている.その上でデザインはお嬢様と呼べるものであることが多い.ご存知,ギャップである.

「お嬢様」は動いて喋って暴れてこそ,お嬢様足り得る時代が来たのだ.ピクシブよりニコニコで人気だった理由がここにあるように思う.

「高貴な口調で我々と同程度,下手したらそれより粗野な言動を行う美少女」は設定だけでかなりのギャップが盛り込まれており,肝心の行動はよく居る人を模倣するかいつも通りの自分で言いのでかなり優れたテンプレートと言える.

しかもゲーム関係は一般のプレイヤーの暴言がエンタメと化してる部分が強い.常人には理解しがたい単語を語気強く並べて猛ってると思えば,文句を言いつつ次のゲームを始める.個人的にはかなり面白い人々だと思う.本人も多分こういう楽しみ方であるのでWin-Winである.

端的にいうと「面白いことをする人の設定を面白くした」のが昨今流行りの「お嬢様」と呼ばれる概念なのである.そして,面白いことをする可能性は我々全てに備わったものである.

つまり,「お嬢様」は「高貴な女性」を意味する一方,「我々」でもあると言える.

我々の中に偏在する「お嬢様」

我々はお嬢様では無い.何なら女性ですらない.

しかし,我々は同時にもはやお嬢様足り得るのだ.

口調を少し高貴に,それでいて粗野な部分を漏らせば実態の無い「お嬢様」に自らが変貌する.*5

自分だけでなく他人のパフォーマンスを落とし,人間関係や人格形成にも悪影響を及ぼし新規参入を減らしコンテンツを衰退させる「暴言」と呼ばれる攻撃も,オブラートに包むことで周りを楽しませモチベーションを高め新規を増やしコンテンツを活性化させうるということを,我々は「お嬢様」から学んだのかもしれない.

*1:

自然言語は情報を伝達するという点において,非常に曖昧性が高い特徴を持つ.それは日常的にはお互いの土俵でのコミュニケーションを可能にする優れた性質でもあるのだが,こと「ちゃんと」情報を伝達しようとすると二度手間三度手間になることも少なくない.SNS時代において,如何に我々人類がコミュニケーションに声色,表情や身振りを頼りにしているかが身に染みている人は多いのではないだろうか?((ビデオ通話だとそれはそれでラグやら何やらでコミュニケーションの不気味の谷に陥るので,対面で話し合いたい人が一定数居るのは情報伝達の意味では正しい傾向.ただ相手が自分と同程度に対面に慣れている必要があるが.

*2:掲示板,Twitter等,閉鎖されたコミュニケーションの場において発生する一般的ではない用途の言語.訳としては方言だが,方言≠スラングなのでslang≠スラングという,スラング自体がスラングなややこしい自体になっている

*3:女性<お嬢 <お嬢さん< お嬢様

*4:まず言葉遣いが汚い

*5:大事なのは高貴さと下賤さのバランスだと思う.そこにセンスが出るので,だんだんと淘汰されたお嬢様が残り,ルールが定まり,警察が生まれ,誰もお嬢様にならなくなるのだ.